++English七転八倒++

「これって英語でどう言うの?」な毎日の備忘録

閉鎖的で抑圧された場所から逃れるために大切なこと 自伝:Educated

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 by Tara Westover

 アイダホ州の山間の小さな街で狂信的(と表現していいのかな)モルモン教の両親のもとに生まれた著者が、封建的な父によって閉ざされた世界の中で生きることを余儀なくされながらも、親の宗教観や家族観などの呪縛から逃れて最終的にはイギリスのケンブリッジ大学で研究者の道を進む自身の回想録。

著者は生まれた時から一度も学校に行ったことがなく、母親が著者を含む6人兄弟姉妹とともにホームスクールで育てられてきました。アメリカにはホームスクール制度があって、一定のカリキュラムに則っていれば、親や学校期間以外による教育も学校教育と同等の資格があるとみなされる。しかしもちろん教えられる内容や幅は親の価値観によって匙加減されるので、必然的に親が必要ない、と思っているような内容には触れないまま。著者も、アメリカの市民運動、人種差別問題、ホロコースト、など普通のアメリカ人なら誰でも習って来たようなことを全く知らないことにあとになって気づかされることになります。

独善的で(と私には感じられたのですが、、、)封建的な父親に認めらたいという気持ちと、親の歪んだ抑圧から逃れなきゃ、という葛藤の中でティーネイジャーの著者は揺れ動きます。でも、そこから逃れる術が思いつきません。結果的に既に家を飛び出して大学に行っていた兄に勧められて高校卒業資格をとって大学に行くことになります。大学に行ってみて初めて彼女は、父親によって遮断されてきた様々な社会生活ー学校へ行くこと、病院へ通うことなどーから本来普通に得られるべき知識を、彼女自身がいかに欠如していたかを知ります。「ずーっと小さな島で育ったから信号の渡り方も知らなかったー」というレベルなら人生のネタにもできたでしょうが、彼女の場合は父親の精神的な抑圧や暴力的な一人の兄による虐待などもあり、自己肯定感がとても低く、自分の育った環境の特殊性を認めるまでにとても大きな葛藤があったようです。こんなに聡明で思慮深い人なのに、自分の父親や一部の兄がいかに理不尽で利己的な論理で彼女の生活を縛ってきたのかを彼女自身が自覚するのにとても時間がかかっていて、その分、この問題の闇の深さが感じられました。

最後の文章はとてもパワフルです。

“The decisions I made after that moment were not the ones she would have made. They were the choices of a changed person, a new self.
You could call this selfhood many things. Transformation. Metamorphosis. Falsity. Betrayal.
I call it an education”

育ってきた環境や家族からの呪縛を逃れて自分自身の生き方を見つけて生きていくことには、様々な形容詞がつけ得るだろうが、彼女はそれを「Educated」と形容して締めくくっていました。彼女の文脈の中での「Educated」という言葉、日本語ではどう言うのが一番適切なのでしょう。。教育される、とはきっと違うし、学ぶこと、だけでも少し足りない気がします。英語の辞書にも様々な定義がなされていましたが、一つ近いものを見つけました。これは動詞の educate の定義の中の一つでしたが、to develop mentally, morally, or aesthetically especially by instruction が近い気がしました。

著者の回想録なんですが、フィクション?と思うような信じられないようなことが次々と起こり、絶望と諦めの中でなんとか著者が自分の生きる道を見出していく、とてもとてもパワフルなお話でした。2019年中、ずーっとベストセラーリストに君臨していた一冊。もう一度、時間のある時に読み返したいくらいの本です。