++English七転八倒++

「これって英語でどう言うの?」な毎日の備忘録

閉鎖された空間に生きると思考も閉塞がちになるのか 小説:The Great Alone

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by Krintin Hannah

ベトナム戦争から帰還してから人格が変わってしまった父と献身的に支える母と一緒にアラスカの未開の地へ引っ越した女の子がたくましく生きていくお話。

物語は1974年からスタートします。オルブライト一家。精神的に不安定な父と機嫌を損ねないようにビクビクしながら生きている母と娘。そんなある日父が「アラスカに引っ越すぞ。」と宣言します。相談ではなく宣言。都会でしか暮らしたことのない母と娘は何が何だか分からないままにフォルクスワーゲンバスに乗ってアラスカの地を目指します。

フォルクスワーゲンのバスに乗って家族で移動、と絵的には素敵に見えるんですが、アラスカの人からすると、こんな車でやってくるなんてよほどの準備不足な人たちに見えるらしいです。

私もニューイングランドに住んでいてなかなかに寒い冬を経験しており、北海道育ちの友人が冬に遊びにきた時も「寒い冬には慣れてると思ってたけどこれは想定外だわ〜。」と驚いていたので多分間違いなく寒い場所なんだと思うんですが、この本の中のアラスカの冬の厳しさったら想像を絶するレベルでした。物語の舞台はアラスカでもよりリモートなKenaqという架空の街に設定されていて、当時は電気も通っていない場所でした。ちゃん準備をしていない人は確実に生き延びれないような過酷な冬。なので、短い夏の間はひたすら長い冬のために食料や燃料を準備するような生活です。

主人公のオルブライト家の一人娘、レニーはそんな過酷な環境下でしかも「他人はほぼ全員敵」という妄想を抱いている父と暮らしているため、とても孤独な少女でした。このお父さん、私の中ではずっと映画「シャイニング」の中のジャック・ニコルソンのイメージが離れませんでした。頼みの綱のお母さんも「お父さんは本当はいい人なの。」という幻想に取り憑かれていて暴力的な父から逃げることができません。典型的なDV家庭です。そして外はただただ広く雄大なアラスカの大地。走って逃げようにも人間よりも先に熊や狼に出会ってしまうかも知れないような場所。。。観光客には最高かも知れませんが、タイトル通りこれはとてつもない孤独です。

なんでもっと早く行動しないの??とフラストレーションを感じながら読まずにはいられませんでしたが、抑圧され、閉ざされた環境下では人はそんな風に自由には発想を広げられないのかも知れません。

様々なドラマが起こりつつ物語は終盤を迎えますが、個人的にはとても満足できるエンディングでした。

物語を読んでいるとレニーという少女と「Where the Crawdads Sing」の主人公カヤの生き様が重なって見えました。過酷で孤独な状況の中で育っているにも関わらず、この二人の少女はどちらもたくましくもピュアで心が優しい人に成長しています。このような状況で育って本当にそんな風にキレイな心を持ち続けられるものなのか、あるいは作者が読者の希望を汲んで創造したレアなケースなのか。どちらにしても両者の生き様に心を打たれずにはいられませんでした。

 

The Great Alone

長いお話でしたが大変面白かったです。 

 

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